食品への異物混入を防ぐ検査方法!暗視野顕微鏡から近赤外分光法まで

私たちの健康をつくる「食」の安全は、様々なアプローチにより守られています。食の安全を守るには、そもそもその食品原料が体に良い物なのかというところから、流通している食品が有毒物質、微生物汚染、異物混入などにさらされていないかというレベルまで調べる必要があります。

流通している農産物、食肉、魚貝類、加工食品などは、それら多岐に渡る配慮に守られて、私たちの食卓に並んでいます。

異物混入の恐怖

しかしながら食品に異物が混入した事件は、後を絶ちません。消費者にものすごい不快感を与えるうえ、知らずに食べると健康被害が発生する可能性があります。食品関連企業にとっては、企業イメージを失墜させる大問題です。

虫やその一部が混入した事例から、金属片、プラスチック片の混入など枚挙にいとまがなく、テレビのニュースで取り上げられる事態に発展することもあります。消費者にとっても恐怖なら、企業にとっては死活問題であり、担当者はその恐怖と日々、戦い続けていると言っても言い過ぎではないでしょう。

それでは、各企業の担当者は、この恐怖に具体的にどう打ち勝っているのでしょうか。実際のところ、私もいまだかつて食品の検査について知見はなく、調べてみるまでは漠然と「製造ラインの人が、目で見て確認したり、抜き出した製品をチェックしているのかな?」といったあいまいな認識でした。

異物混入を調べる方法とは

食品における完成物に、果たして異物が混入しているかどうか、どうやって調べるかご存じでしょうか。素人考えでは「薬品を使う」、「超音波を使う」、「エックス線を使う」など思い浮かびますが、現実的かどうかわかりません。

ざっと調べたところでは、「外観観察、微細観察」、「赤外分光光度計を用いた検査」、「近赤外分光による食品検査」など、想像のつかない言葉が並びます。最も想像しやすい外観観察といった検査でも「直接、目で見て調べる」のに限界があることは、すぐにわかります。

ただ、目で見るといっても、子供の頃から慣れ親しんでいるあの装置を使えば、微細な異物まで発見できます。そう、顕微鏡ですね。ただ、顕微鏡といっても子供の頃に授業で使ったものは、対象物を薄いガラスにはさんでプレパラートを作り、下から光をあてて透き通った光を拡大して観察していました。

このような顕微鏡を明視野顕微鏡と言います。この顕微鏡は、「外観観察、微細観察」をするにあたって重要な装置です。明視野顕微鏡は対象物を薄くスライスしたりして、光を透過させることができれば微細な観察ができます。

では、明視野顕微鏡ではわかりにくい場合に、違う方法で顕微鏡観察することはできないのでしょうか。実は「暗視野顕微鏡」を使うと、異なる映像で対象物を観察することができます。暗視野顕微鏡の映像はイメージでいえば、カメラのマクロ撮影のような感じです。

その仕組みは簡単に言うと、対象物に斜めから光をあてて、その反射光や散乱光を拡大観察するものです。対象物の質感がわかりやすいとか、色がつぶれないという特徴があるので、異物特定のため有効な方法のひとつです。

赤外分光光度計を用いた検査

赤外分光光度計というものをご存じでしょうか。顕微鏡と比較した場合、顕微鏡は対象物に可視光線をあてて観察しますが、赤外分光光度計は対象物に「赤外線」をあてて観察するという違いがあります。赤外線は目に見えないのに、どうやって観察するのでしょうか。

実は、物質を構成している分子は、それぞれ赤外線を吸収する率が異なるのです。つまり「どのくらい赤外線が吸収されたか」を調べれば、その物質が何なのかを特定することができるのです。顕微鏡は目で見る装置なので、物質自体の特定は観察者の知見によります。

しかし赤外分光光度計を用いれば、科学物質の「同定」が可能なのです。食品の異物検査にもこの赤外分光光度計は用いられ、顕微鏡観察などと加えてより信頼性の高い検査が行われています。そして、この赤外線の性質は、近年ではさらに精度の高い検査方法を生み出しています。

近赤外分光法による食品検査

赤外線は、波長の違いにより性質が異なる側面を持っています。赤外分光光度計に使われる赤外線は、「中赤外線」と言われる赤外線で、他には暖房器具でおなじみの「遠赤外線」があります。これらに加えて「近赤外線」という、可視光線に近い短い波長の赤外線があるとのこと。

この近赤外線は、中赤外線にくらべて「物質を透過しやすい」という性質があるため、対象物の内部構造を調べるときに、破壊しなくてよいというメリットをもたらします。さらにこの透過しやすいという性質は、水分特定など食品の分析に強みがあり、異物特定にも近年、用いられているとのことです。

ただし、例えば「食品内部にプラスチック片が混入している」といった場合、近赤外線どころかエックス線を用いても特定が難しい場合があるようです。このような場合、近赤外線に反応する物質をあらかじめ製造ラインで使用されるプラスチックに混入しておいて、万が一それらが混入した場合に、近赤外分光法により検出するといった方法が開発されているようです。

いずれにせよ、内部を破壊せず検査するために、安全性の高い方法を用いてもらえることは、食品の場合は特に歓迎すべきことです。赤外線が食品検査に使われるなど実際、想像もしませんでした。

食の安全を保つために

ただ、素人考えではありますが、各食品メーカーが大量の全製造物をこれらの方法で検査できるのかは疑問です。一定の頻度でサンプルを抽出して検査する、いわば確率論による検査に用いられる手法なのか、また、問題が発生した場合の原因究明に用いられる手法なのかなど、詳しいところはわかりません。

確実性を上げるために膨大なコストがかかることは、やはり素人考えでも想像のつくことです。ただ、異物混入のために、これだけの技術が用いられていることを知れば、安心感は増します。現に私も、いまだかつて食べ物に異物が入っていた経験をしたことがありません。

そもそも人間の目は相当細かいものまで見分けられますので、現場の方の目視チェックでもかなりの効果をあげることができるのではないでしょうか。それに、ここに紹介した検査方法が異物検査のすべてというわけではないようです。

様々な検査方法が組み合わされて食品衛生は守られ、この国の食の安全は保たれているということなのでしょう。